若葉のいのち

子供は「つくるもの」ではなく「さずかりもの」

とある夫婦のお話です。

ご主人Aさんは奥さんとの間になかなか子供ができずに悩んでおりました。
そんなときに今はもう亡くなってしまったAさんのおばあさんが事あるごとに当寺にお参りに行っていた事を思い出し、わらにもすがる思いで子授け祈願をお願いしに来参しました。

話を聞いてみると10年以上子供が授からなく、不妊治療で家計も圧迫。
身体にいい食べ物、飲み物を取り入れたり、適度な運動をしたりもしてきたが効果なし。
最近は、子供の話をすると喧嘩ばかりで夫婦仲も悪化してきたとのこと。

そこで、神だのみ的な信仰ではなく、夫婦そろって月に一度お参りに来て仏さまに子授け祈願のお参りを続けるように指導しました。

その中で、子供は「作るもの」ではなく、「授かるもの」という認識を持つことが大切であることを理解してもらい、子供と縁を結べるように夫婦で同じ方向を見据えて仲睦まじく生活するようにも指導しました。

それからといものAさん夫婦は毎月必ずお寺にお参りにくるようになり、一生懸命子授け祈願をつづけました。その都度悩み相談もおこない、心の安定化もはかりました。
十年以上の間、「早く子供をつくらなくては」という焦燥感に駆られていた夫婦は、次第に落ち着きを取り戻し、心も安定してきました。夫婦仲も少しずつもとに戻ってきたそうです。

嬉しい報告と悲しい報告

そして約1年が過ぎた頃、Aさんからお電話をいただきました。

「おかげさまで、妻が妊娠しました!」

「それはおめでとうございます。来月お参りの際にお礼参りをしましょうね。奥様のお身体大事にしてください」
電話越しにAさんの嬉しさが伝わりました。
ほんとうによかった。よかった。

翌々月、いつもの時期にAさんだけがお参りに来ました。
ところが様子がおかしい。暗く青ざめた顔をしている。
話を聞いてみると、Aさんはか細い声で絞り出すように話をはじめました。

「実は妻が稽留流産になってしまいました。」

「医師の診察によると、既に赤ちゃんの心音は聞こえず、おなかの中で亡くなっているようです。」
「医師には手術を勧められていますが、妻はまだあきらめたくない、と毎日泣いています。」
「そんな姿をみて私も妻になんて、声をかけたらいいか。。。」
「もっと私も妻の身体をいたわってやればよかった、気遣ってやればよかった、と後悔の毎日です。」
Aさんは、ボロボロと涙を流しながら胸の内を語ってくれました。

1年間、一生懸命頑張ってきた夫婦の姿を見てきた私もショックでした。
そして、掛ける言葉が、みつからない。

ところがAさんは、このように言いました。
「家にいると、色々考えて苦しくなってしまいます。そこでお寺の仏さまに道を示してもらおうとやってきました。しばらくの間、お参りをさせてください。」
「わかりました。それでは私もご一緒させてください。」
と二人で御題目を唱えてお参りをはじめました。

その日は、夕方から法務があったので1時間ほどご一緒させていただいたあと
「好きなだけ、お参りしていただいてかまいませんので」
と言い残し、でかけました。

不思議な体験

さて、20時過ぎに法務から帰ってくると、、、まだお堂が明かりがついている。
様子を見にお堂に入ると、Aさんは礼拝をしたまま眠っておりました。

Aさんに声をかけると・・・
ガバっと起き上がり、ボロボロ涙を流し、衣の裾を引っ張りながら

「今、夢の中でわたしたちの子供がでてきて、『パパ、わたしのこと、こんなにも想ってくれてありがとう。これからもいつも見守っているから、ママのこと、よろしくね。』と言ってくれたのです!妻に報告してきます!ありがとうございました!」

と一目散に駆け出して帰っていきました。

翌日、Aさんから電話がありました。
奥さんにお寺で起きた不思議な出来事を話すと
「この子は、わたしたちの中でこれからも生きていってくれるんだね。。。」
と手術を決意してくれたようです。

その後の夫婦

その後、無事に手術を済ませたAさん夫婦は以前にもましてお参りに来るようになりました。
こちらが声をかけた訳でもなく、自発的に子供の供養に来るようになったのです。

そして、きれいなお花、たくさんのお菓子をもって、毎回のように手紙を書いてお供えをして供養を続けました。
親にとっては最も苦しく、辛い「子供を亡くす」という体験を二人で、いえ、三人で乗り越えていきました。

こうして、この夫婦の子供は二人の中で永遠に生き続けることになったのです。

『人は愛する人を喪っても、愛する能力まで失う必要はない。人は悲しむ勇気を持って愛することを選ぶならば、死別の悲しみを超えて、永遠の出会いの中を生きることができる。』
キュプラー・ロス

まとめ | いのちは、繋がっていく

あれから1年後。

Aさん夫婦は参拝を続けています。
毎月、月命日になると必ず、決まった時間にお参りに来ます。

ただ、以前と変わったところがひとつだけ、あります。
今年、参拝の人数が3人になりました。

Aさんは言います。

「この子が物心ついたら、お前には『おねえちゃん』がいたんだよ。だからお前が生まれてこれたんだよ、だから一緒にお参りをして、おねえちゃんを大事にしていこうね。と伝えるつもりです。」

いのちは、こうして、繋がっていく。